私はタイで英語教師をしています。受け持つクラスの最初の授業はいつも緊張しますが、その緊張の理由は初対面の人たちの前で教壇に立つからではありません。タイ人の名前はとても長くて難しく、まったく聞き取れないからです。
そんな時は本名を聞き取ることはあきらめて、「What’s your nickname?(ニックネームは何ですか。)」と質問を切り替えます。タイ人はみんな短く覚えやすいニックネームを持っています。
今回はタイ人のニックネームについてまとめてみました。
タイ人の長い名前
呪文のような名前
初めての授業で、「What’s your name?(名前は何ですか。)」を聞くときが一番緊張します。
「My name is Chutimon Chuengcharoensuking(私の名前はチュティモン・チュンチャルーンスクインです。)」などと言われますが、「My name is…」の後は呪文にしか聞こえません。
「もう1度お願いします」と聞くことさえ躊躇してしまいます。2、3回聞き直しても、聞き取れないことは明らかです。
なぜ名前が長くなるのか
Chalida Vijitvongthong(チャーリダーウィジットウォントーン)、Nattaweeranuch Thongmee(ナッターウィーラヌット・トンミー)などタイ人の名前は長い名前が多いです。
名前は両親や僧侶から、あるいは占いで決めたりすることが多いようです。日本人の名前も漢字に意味があるように、タイ人の名前もいろんな意味が込められているようです。
例えば、「シリポーン」は「栄光や幸運」、「ソムチャイ」は「立派な男の人」という意味があります。
同姓同名はほとんどいない
100年くらい前まではタイの一般庶民は苗字がありませんでした。1913年に名字法が制定され、タイ国民はすべて苗字を持つことになりました。他人とは同じ苗字にならないように、複雑で長い苗字を自ら考え出してつけたそうです。
また王族の長い名前に憧れて自分の苗字もとても長くする人たちもいました。そのためタイでは同姓同名は滅多にないそうです。
タイではニックネームをどうつける?
ニックネームで呼び合うのが普通
タイ人同士親しい間柄でもお互いの本名はほとんど知りません。ニックネームで呼び合うのが普通で、学校でも仕事場でもニックネームが使用されます。ニックネームはタイ人の本名と同じように両親や僧侶がつけますが、こちらは割と適当のようですね。
ニックネームの付け方とその理由
タイでは動物、虫、食べ物、色の名前をニックネームに使用している人が多いです。それはタイでは子どもが生まれると悪霊に赤ちゃんを連れ去られないように「人の子」だとバレない名前をつける習慣があるからです。
タイのニックネーム事情、 よくあるのは?
割と多いあだ名
動物を使ったニックネームでは、「メーオ(猫)」、「カタイ(うさぎ)」、「ヌー(ねずみ)」、「ムー(豚)」、「チャーン(像)」、「ノック(鳥)」などがあります。
「モット(アリ)」や「タカテン(バッタ)」のように虫の名前をニックネームにすることもあります。
食べ物では「カーオ(ごはん)」、「カティ(ココナッツミルク)」、「ケーク(ケーキ)」、など、果物では「アップン(りんご)」、「アグーン(ぶどう)」、「テンモー(すいか)」などがあります。
色では「デーン(赤)」、「ファー(水色)」、「ソム(オレンジ)」、「チョンプー(ピンク)」などがあります。
呼ぶには躊躇するあだ名
「ムー(豚)」というニックネームの友人がいますが、呼ぶときにとても躊躇してしまいます。本人も小さい時はとても嫌だったそうですが、今では全然気にしないそうです。
ニックネームに深い意味はないようですが、名前と意味をくっつけて考えてしまう私には呼びづらいニックネームが多いです。
一風変わったあだ名
私が担当した生徒には、一風変わったあだ名の人もいました。
ご両親が2人とも楽器を演奏するのが好きなので娘は「ミュージック」、お父さんがゲームばかりしているので息子は「ゲーム」、生まれたとき真っ赤だったので「ヤム(タイ語でジャムのこと)」、ビールをよく飲むから息子は「ビアー(タイ語でビールのこと)」なんて人もいました。
また、子どもに創造力を養ってほしいとつけられた姉妹は「ジクソー」と「レゴ」、「クレヨンしんちゃん」が好きだから「シンチャン」など、私たちにもおなじみのものも。名詞だったらなんでもいいのかしらと思うようなニックネームのつけ方です。
タイのニックネーム事情にもキラキラネームブーム
日本ではすでにキラキラネームは知るところですが、タイでもニックネームをキラキラにする傾向があるようです。その時流行っているものや有名なものをニックネームに取り入れる人たちもいます。
例えば「ノキア」、「アイフォン」、「モバイル」、「スターバックス」など、成功した企業や事業の名前が入ることもあります。
また日本のアニメから「イッキュウ(一休さん)」や「ナルト」、洋風なニックネームでは、「アレキサンダー」、「サファイア」、「マイケル」などがあります。
でもタイでは本名にキラキラネームを使うことはありません。そのせいかニックネームは半分お遊びの要素が大きいような気がします。
タイのニックネーム事情、インパクト大なニックネーム
クラスのお嬢さんとボス
ある女子生徒のニックネームは「マドモアゼル」でした。フランス語で「お嬢さん」の意味です。本人も自分のことを「マドモアゼル」と呼ぶには少々恥ずかしかったようでした。インパクトは大ですが、呼ぶのも書くのも大変な名前です。
「ビッグボス」と「ボス」は同じクラスにいた2人の男の子のニックネームです。自分の生徒なのにまるで上司が2人いるようです。当然ですが教科書にもテストにも「ビッグボス」、「ボス」と名前が書かれていました。なんだかちょっとかわいく思えました。
映画の主人公?
ある男子生徒のニックネームが「ジェームスボンド」でした。もちろん由来は「007」のジェームスボンドです。ジェームスとボンド、フルネームでニックネームです。彼の名前を呼ぶとき私の頭の中ではテーマ曲がずっと流れていました。
最初の自己紹介の時の「My name is James Bond」は、映画の中の決めセリフと同じです。きっとそこから取ってニックネームにしたのでしょう。完全にジョークですよね。
でも彼はみんなから親しみを込めて「ジェームスボン(タイ語では最後の子音を読みません)」と呼ばれていました。
タイで私から生徒にニックネームを命名、日本ブームにのって
生徒たちから日本のニックネームをつけてと言われることもあります。そういう時は本名の意味を聞いて、それにふさわしい漢字を当てはめてニックネームをつけてあげます。
「アンスマーリン」は「太陽の光」という意味なので「陽子ちゃん」、サクチャイは「勝つ」という意味なので「勝利くん」のように日本語のニックネームをホワイトボードに書くと、みんな一生懸命書き留めます。
まとめ〜わたしにはどんなニックネーム?
タイのニックネームを集めたら、あっという間に1冊の本になるくらいたくさんの名前があります。よくこんなにいろんな名前が思いつくなあと感心します。
ちなみに私のタイ語のニックネームは「マリ(ジャスミン)」です。日本人の名前はタイ人にとって難しいので、タイに来るときは呼びやすいニックネームを用意しましょう。
あるいは、タイ人から奇想天外なニックネームをつけてもらう?一生忘れられない体験になること間違いなしですね。